遺産分割協議

 人(被相続人)が亡くなり相続が開始すると、まず遺言書の有無を確認し、遺言書がない、又は遺言書が有効でない場合には、相続人全員の話し合いによって遺産を分割(協議分割)します。 一応相続分については法律で規定された相続分(法定相続分)がありますが、それらに従う必要はなく、相続人の話し合いにより遺産を分割できます。 特定の相続人の相続分を無しとする分割協議もできます。 また、遺言は遺言者の意思を尊重する制度ですが、相続人全員の総意に基づくもの以上に遺言者の意思を尊重することを求める趣旨ではないので、遺言書があるからといって、遺言書通りにする必要はなく、相続人全員で遺言書とは別の遺産の分け方の合意が成立すれば、遺産分割協議書を作成して遺産を分け合います。

adicon 行政書士は、遺産分割協議書作成を受任します。

人が亡くなった時

 亡くなって財産を残した人を【被相続人】といい、財産を受ける人を【相続人】といいます。 人(被相続人)が亡くなると、その人の財産は、各法定相続人が法定相続分に応じて承継しますが、一定の法的手続き(遺産分割)をしないと現実に相続人のものとはなりません。 たとえば、預金口座から引き出そうとしても、亡くなった方の預金口座は相続人が確定するまで凍結されてしまい、相続人全員の同意書がないと預金を引き出すことができなくなります。

遺産分割の前提事項

 遺産分割を行うには、その前提として相続人を調査・確定し、遺産内容を調査し、その範囲を確定・評価し、相続財産を確定しなければなりません。

相続人の確定

 亡くなった方の出生~死亡までの身分関係の変動がわかる戸籍謄本等を取り寄せ、相続人の範囲を確定する為に各相続人の戸籍謄本を取り寄せる必要があります。

相続人に未成年者がいる場合・・・相続人に未成年者がいる場合は、法定代理人(親権者)が代理人となって遺産分割協議をします。 未成年者の子をもつ父親が亡くなると、母親と子が相続人となりますが、子の親権者も相続人なので、相互に利益対立があり代理人となることはできない為、特別代理人の選任を家庭裁判所に申し立てなければなりません。 この特別代理人を選任しないでした遺産分割協議は無効とされます。 なお、遺産分割協議には時効はありませんので、成人に達するのを待って遺産分割協議をすることもできますが、相続税の申告・納付が必要な場合は、死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行うことになっています。

相続人に認知症の高齢者や精神的障がいを持つ人がいる場合・・・相続人に認知症や精神的障がいを持つ人(被後見人)がいる場合は、成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立て、成年後見人を代理人として遺産分割協議をしなければなりません。 一般的には、成年後見人の候補者欄に親や子・兄弟姉妹を記載することがありますが、遺産分割協議については、それらの方も同時に相続人となる場合があり、その場合には相互に利益が対立する為、代理人とはなれませんので、相続人でない親族を候補者として申し立てをしなければなりません。

特別代理人の選任・・・認知症の高齢者や障がい者について、既に親や子・兄弟姉妹が後見人となっている場合で、両者が共に相続人である場合は、相互に利益の対立がある為、後見人は代理人となることは出来ず、「特別代理人」の選任を家庭裁判所に申し立てることになります。

遺産の調査と遺産範囲の確定

遺産の範囲を確定・・・相続財産には多種多様なものがあり、プラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も相続財産となります。 土地、家屋、借地権、借家権、株式等有価証券、現金、預貯金、家財、自動車、貴金属、ゴルフ会員権などがプラスの相続財産となります。 マイナスの相続財産としては、借金、住宅ローン、未払い月賦、未払い税金、未払い家賃・地代、未払い医療費などがあります。 しかし、遺産分割の対象となるのはプラスの財産だけで、マイナスの相続財産は、法定相続分に従い当然に分割承継され、遺産分割の対象とはなりません。 仮に債務を法定相続分とは異なる分割をしたとしても、それは相続人の間だけで有効であって、債権者には主張することはできず、債権者は各相続人に対して相続分に応じた債務の請求をすることができます。 債務について承継する相続人を定める場合は、債権者との話し合いにより承諾を得なければなりません。
遺産の範囲の確定について相続人に争いがある場合、合意が形成できない場合は、「遺産確認訴訟」を提起し、遺産範囲を確定しなければなりません。  

遺産分割の基礎財産

預貯金調査・・・亡くなった方の死亡日の残高証明書を金融機関から取り寄せます。 遺産分割においてよく問題となるのは、一部の相続人が、死亡前に預貯金を引き出し又は解約したということがあります。 葬式の費用や入院先の治療代などをあらかじめ引き出しておくということはありますが、不正に引き出しているという場合には「不当利得返還請求」という問題となります。 このような場合は、過去の入出金明細表を金融機関で交付してもらいます。 なお、相続人全員の同意がなくても、相続人の1人が単独で、亡くなった方の預金口座の取引経過の開示を求めることができます。
<最高裁判所 平成21年1月22日判決>
共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができるというべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。

不動産調査・・・不動産のある市区町村役所で不動産の「名寄帳」を取り寄せます。 この名寄帳は、その市区町村にある所有する不動産についての一覧表で、固定資産の評価・課税状況が表示され、未登記のものでも記載されています。 また、贈与された土地についても調査が必要となります。

相続財産から除外されるもの・・・墓地・墓石、仏壇などは相続財産には含まれず祭祀主宰者となる人が承継します。 死亡退職金、遺族年金なども受取人となっている人のものとなり分割対象とならない財産です。 また、生命保険金は見解が分かれますが、一般的には受取人のものとなり相続財産から除外されると考えてよいでしょう。

遺産の評価を確定

 相続財産についての評価は、遺産の分割時の時価(実勢価格)によって評価されます。 遺産を評価する場合、厳密には各専門家に評価してもらう必要がありますが、専門家に依頼するにはそれなりに費用がかかるので、相続人の合意のもと土地評価については固定資産税評価額や地価公示価格などを参照するなどの便法により評価します。 相続税が発生する場合には、不動産鑑定士などの各専門家に依頼することになります。

遺産分割協議のやり方

 相続人、遺産内容が確定したら相続人全員による遺産分割協議となります。
遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければ無効となります。 遺産分割協議は相続人全員の同意があれば自由に分割することができますが、1人でも同意が得られないでした分割協議は無効となり、遺産分割協議をやり直すことになります。

遺産分割協議の実際

 遺産分割協議のやり方や遺産分割時期については定めがあるわけではありませんので、相続人たちの自由にすることができます。 ただし、相続税の申告は相続開始から10カ月以内にする必要があります。 一般的には、49日の法要など親族が集まる機会に話し合いがなされることが多いです。 協議はすべての相続人が一堂に会して話し合うのが理想ですが、相続人が遠方に居たり、各相続人のスケジュールが合わないなどの場合もありますので、電話や手紙、Eメールなどの通信手段によって協議を進めながら合意形成を図り、あらかじめ作成された遺産分割協議書を郵送などによる持ち回りで署名・押印する方法により行うことができます。

分割方法

 遺産の分割方法としては、現物分割、換価分割、代償分割、共有などの方法があります。
現物分割・・・個々の財産をそのまま各相続人に分けることで、土地Aは長男、土地Bは次男という具合に分けることです。 また、一筆の土地を幾つかに分筆して各相続人に取得させる場合もあります。 この現物分割が原則的な分割方法で、調停、審判でも現物分割とすることが多い。
換価分割・・・遺産を金銭に変えて分割することで、土地Aを売却し金銭に変えて分割します。
代償分割・・・特定の相続人に現物を取得させ、他の相続人に対して相続分の金銭を支払う方法により分割します。 一度に支払いができない場合は、分割払いするなどの方法によります。
共有・・・相続財産の全部又は一部について相続分に応じて複数の相続人全員で所有することです。
合意が得られれば現物分割が最もよい方法ですが、相続分の調整が問題となる場合は、換価分割や代償分割を合わせて協議し調整を図ります。 なお、共有とするのはあまりお勧めできません。 複数の相続人が権利をもっているので実質的に分割したことにならないからです。

後見人(又は特別代理人)によるの遺産分割協議について

 未成年者や認知症の高齢者、精神的障がいのある方が相続人の場合は、後見人や特別代理人が遺産分割協議の代理をすることになりますが、協議に当たっては、被後見人が不利益をこうむることがないよう、被後見人の法定相続分を取得できるようにするのが原則となります。 しかし、遺産の内容、その土地の慣習、被相続人と他の相続人との関係などを総合的に考慮し、最終的には後見人の責任において判断することとなりますが、裁判所の関与があります。

全部分割と一部分割

 相続人全員の合意があれば、全ての遺産を分割するのでなく、一部の遺産についてのみ分割し、後に残余の遺産を分割することもできます。 例えば、相続債務の返済を早く済ませる為、遺産の一部だけを分割し債務返済に充てるということができます。 実際の遺産分割においも、マイナスの財産である債務を先に弁済してしまい、プラスの財産について遺産分割協議を進めることが多いようです。

遺産分割協議書

 遺産分割協議により相続人全員が合意した内容は、書面に残しておかなければなりません。「遺産分割協議書」は、相続を証明する書類となりますので、相続人全員による署名・押印しておく必要があります。(記名でもよいができれば署名がよい。 記名とはプリントアウトした文字やスタンプ、署名とは自筆のこと)

相続する財産の種類毎に遺産分割協議書を複数作成する

 1通の遺産分割協議書にすべての財産を記載することもできますが、相続する財産の種類毎に遺産分割協議書を作成することできます。 全ての財産を1通の遺産分割協議書にすると、その後の相続手続きの際に、財産内容がすべて判ってしまう為、これを避けることができます。

遺産分割協議書作成上の留意点

 遺産分割協議書作成には、次の事項に留意して作成します。
① 誰がどの遺産を取得するか明記する。 名前は戸籍上の名を記載し、住所は住民票や印鑑証明の記載通りとし、取得する遺産が明確に特定できるように正確に記載する必要があります。 不動産などは登記簿上の地番を記載します。
② 遺産分割協議書が複数ページに及ぶ場合は、ホチキス止めするなどして見開き部分やページを折り返して、全ての相続人の契印をします。 これは複数ページに及ぶ協議書が一体のものであることを確定させる為のものです。
③ 協議書作成以降に判明する相続財産について、どのように分割するかを定めておく。
例えば、「協議書に記載されていない遺産の存在が後日判明した場合は、不動産については長男○○が取得し、その他の遺産については次男○○が取得する。」
④ 不動産の相続登記や銀行預金の名義変更をしたり、相続税の申告をする場合の「遺産分割協議書」は、実印を押し、印鑑証明を添付する必要があります。 また、「遺産分割協議書」を作成する通数に決まりはありませんが、各相続人が不動産登記などをする必要があり、手元に置いておきたいような場合は、相続人の数だけ作成する必要があります。
※ 金融機関により取扱は異なりますが、遺産分割協議書では預金口座の名義変更を認めない取り扱いをしていることがあり、金融機関指定用紙に、相続人全員の実印の押印を要求されます。

遺産分割協議が整わない場合の調停と審判

 遺産分割協議により合意が形成できない場合には、遺産分割事件として調停又は審判を申し立てます。  遺産分割調停は、調停員や家事審判官が関与して合意形成が図られ、合意が成立したときは、確定した審判と同一の効力を有する「調停調書」が作成されます。 それでも話し合いがまとまらないときは、当然に遺産分割審判手続きに移行します。 遺産分割調停・審判では、その多くは法定相続分によって遺産を分け合うことになることが予想されますので、相続人の話し合いで分ける方が後の親族関係にも良いでしょう。

遺産分割協議で定めた内容が実行されない場合

 遺産分割協議で決めたことを実行されない場合でも、遺産分割協議の解除は認められず、調停や審判によりその履行を求めることになります。 例えば、特定の相続人が不動産を相続する代わりに、他の相続人に対して相続分に応じた金銭の支払いを分割払いをするような代償分割をした場合、その支払いが滞った場合などが該当します。 支払いを受ける相続人がその遺産分割協議を解除しようとしても認められませんが、相続人全員の合意によりその遺産分割協議を解除し、改めて遺産分割協議をすることはできます。

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