遺言執行

 相続は、人(被相続人)が亡くなったのと同時に開始されます。   相続が開始すると、まず遺言書の有無を確認します。 自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合は家庭裁判所の検認を受けます。法的に有効な遺言書であれば、遺言に従い遺産を分ける(指定分割)ことになります。

遺言書有無の確認

公正証書遺言・・・昭和64年1月1日(平成元年)以降に作成されたものであれば、日本公証人連合会においてコンピュータで管理していますので、全国どこの公証役場でもすぐに照会することができます。(東京は昭和56年以降、大阪は昭和55年以降の照会が可能) それ以前に作成されたものについては、遺言書を作成した公証役場でないと照会できません。
公正証書遺言の照会は、相続人等の利害関係者(代理人可)だけができ、遺言者の死亡を証明する戸籍謄本、相続人等の利害関係者であることを証明する戸籍謄本、「運転免許証」などの身分証明書を持参し、公証役場で照会します。 存在が確認されれば、作成した公証役場へ遺言書の謄本交付を請求します。 なお、遺言者の生存中は遺言者以外の方はその存在を確認することはできません。 

自筆証書遺言・・・遺言書作成~保管まで遺言者が行う為、仏壇や金庫など心当たりのある場所を探す必要があります。 銀行の貸金庫をもっている場合はそちらも探す必要がありますが、一定の手続きが必要となります。 また、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に相談して作成している場合には、それらの人が預かっていることもあります。

秘密証書遺言・・・自筆証書遺言同様心当たりを探します。 作成した遺言書を証人立ち会いのもと公証役場で遺言書の確認をしていますから、証人が知っているかもしれません。

家庭裁判所による検認 → 自筆証書遺言、秘密証書遺言

 自筆証書遺言、秘密証書遺言の存在が確認されたら、遺言書の保管者・発見者は、相続の開始を知った後、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出し「検認」の請求をしなければなりません。 「検認」という手続きは、家庭裁判所による遺言の存在を検証する手続きで、後から偽造・変造されたりすることを防ぐ意味を持つ証拠保全の手続きです。 「検認」は遺言の有効・無効を判断するものではなく、効力を確認・確定するものではありませんが、この「検認」がないと不動産の相続登記や銀行預金等の名義変更ができません。 「検認」手続きは、自筆証書遺言、秘密証書遺言について必要な手続きで、公正証書遺言の場合は不要です。
「検認」手続きの実際・・・「検認」手続きは、裁判官が保管者・発見者に保管状態や遺言作成のいきさつなどを尋ねたり、本人の自筆であるかどうか相続人に尋ねたりします。 裁判官立ち合いのもと初めて遺言書が開封されるので、遺言内容によっては、その場で相続争いの口論となる事もあるようですが、遺言の有効・無効を判断する場ではないし、遺言内容を確定させる手続きではないので、見苦しい振る舞いは慎まなければなりません。 

封印してある自筆証書遺言、秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認手続きにおいて開封されますが、勝手に開封した場合には5万円以下の過料(行政罰としての制裁金)を科せられる規定がありますので注意してください。 「封印してある」とは、遺言書の入っている封筒に「押印」されているものをいい、単にのり付けされた封筒に遺言書が入っているものはこれに該当しませんが、開封してしまうと偽変造の疑義をもたれるので注意が必要です。

遺言書の有効性の判断

 発見された遺言書が有効であるかどうかは、形式面と実体面から判断する必要があります。 形式面では法律に定める方式に従っていなければなりませんし、実体面では、遺言者の遺言当時の遺言能力(弁識・判断能力の有無等)や遺言の実現可能性、内容の特定性などが問われます。

公正証書遺言の場合・・・遺言書作成時に公証人が関与するので有効性について問題となる危険性は低いと思いますが、公正証書遺言を無効とする判例はあります。 また、検認の必要がない公正証書遺言だから有効であるという事ではなく、公正証書遺言は、公証役場で原本が保管され、偽変造の危険性や証拠保全の必要性がないので検認は不要とされています。

自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合・・・弁護士、司法書士、行政書士などの専門家と相談して作成している場合は、無効となることはありませんが、自己流で作成した場合は遺言書の有効性が問題となることがあります。

遺言書について疑義がある場合・・・家庭裁判所で「検認」を受けたとしても、その遺言書が有効と判断されたわけではないので、遺言時の遺言能力の有無や偽造・変造など遺言書の有効・無効に疑義がある場合には、検認後、「遺言無効確認の調停」を家庭裁判所に申し立てます。 調停により当事者間に合意が成立し調書が作成されると(確定判決と同一効果あり)遺言書の有効・無効が確定します。 調停が不成立に終わると「遺言無効確認の訴え」を提起することになります。 このように遺言の有効性に疑義があり、裁判に発展する可能性が高い場合は、弁護士等の専門家に相談した方がよいでしょう。

相続人間に争いがなく、各相続人が遺言内容について納得している場合・・・遺言書の有効無効に関係なく各相続人が遺言内容について納得している場合には、遺言者の意思を尊重し遺言内容に沿って遺産を相続すればよいのですが、その遺言書が不動産の相続登記手続きに使える有効なものかどうかは別問題です。 有効なものでない場合には、遺言内容に沿って遺産分割協議書を作成することになります。 弁護士、司法書士、行政書士などにご相談ください。

遺言の執行とは

 遺言書が有効なものである場合は、遺言内容を具体的に実行します。 遺言の効力が発生した後、遺言内容を法的に実現する手続きを「遺言の執行」といい、遺言事項のうち執行行為が必要な事項は以下の7つです。 この7つ以外の遺言事項は、被相続人(亡くなった人)の死亡により遺言の効力が発生することで法的に実現するとされています。  例えば「土地Aを相続人Xに、土地Bを相続人Yに、○○銀行の預金を相続人Zに相続させる」と書かれた遺言は、相続の開始により分割の方法について効力を生じます。 現実的には、その指定された方法で分割を実行するには、別に執行行為(不動産の相続登記など)をすることになります。

① 認知・・・「母○○○○の子○○○○を、私の子として認知します」 遺言執行者のみができるもの
② 推定相続人の排除又は推定相続人廃除の取消・・・「推定相続人Xを相続人から廃除してください」「推定相続人から排除されているXは、真面目に更生しているので排除を取り消してください」
③ 遺贈・・・「私の遺産の1/2を長男Aの嫁○○○○に遺贈します」「私の遺産の土地Xを長男Aに相続させます」 遺言執行者がいるときは、遺言執行者により執行され、いないときは相続人に
よって執行されるもの
④ 財団法人設立・・・「私の遺産で○○財団法人を設立してください」
⑤ 信託の設定・・・「私の遺産の○○アパートは、○○信託銀行が管理し、その受益者は妻とします」
⑥ 生命保険金受取人の指定・変更
⑦ 祭祀承継者の指定・・・ 「長男○○○○を祭祀承継者とし、○○家のお墓、位牌などを承継してください」

遺言があっても遺産分割協議が必要な場合

 「○○に全財産の2/3、□□に全財産の1/3を遺贈する。」のような分数的割合を記載した遺言については、実際にどのように遺産を分けるかが問題となりますので、遺産分割協議が必要になります。 相続人のみに遺産を遺そうとする場合には、より具体的に遺産内容と相続人を特定し、「相続させる」と記載します。 例えば、「妻に土地A、家屋Aを、長男に土地Bを、次男に○○銀行と□□銀行の普通預金を相続させる。」といったようにします。

遺言執行者

 遺言書には「遺言執行者」が指定されていることがあります。 「遺言執行者」とは、遺言書の内容を実現する権利義務を有する人で、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています。 法的には遺言執行者は「相続人の委任者」という地位にありますが、「亡くなった方に代わって遺産を分ける手続きをしてくれる人」という風に考えた方が解りやすいかもしれません。

遺言書に遺言執行者の指定がある場合は、指定された人に、遺言執行者となるかどうかを確認し、承諾が得られればその指定された人が遺言を執行します。 承諾が得られない場合には、家庭裁判所へ遺言執行者選任の申立をするか、相続人だけで遺言内容を執行することになります。

遺言執行者の指定がない場合で遺言執行者を選任したい場合や遺言書に①認知、②推定相続人の廃除、③推定相続人の廃除取消の記載がある場合には、遺言執行者のみがこれらを執行できますので、遺言執行者の選任を裁判所に申立てる必要があります。

遺言執行者の指定が無く、遺言執行者の選任を望まない場合は、相続人の共同行為により遺言が執行されます。 ただし、上記のように遺言書に①認知、②推定相続人の廃除、③推定相続人の廃除取消の記載がある場合には、遺言執行者の選任を裁判所に申立てる必要があります。

遺言執行者の権限・・・遺言執行者には相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権限が与えられ、相続人はその執行行為を妨げる事はできません。 よって、遺言書に遺言執行者が指定されていたり、家庭裁判所により遺言執行者が選任された場合には、相続人であっても相続財産の処分行為は禁止され、相続人が勝手に相続財産を処分してしまうような事があっても、その行為の無効を主張できます。 なので、遺言書には遺言執行者を指定しておいた方が、遺言内容を確実にする事ができます。 

相続人による遺言執行

 遺言執行者の指定がなく、遺言内容に①認知、②推定相続人の廃除、③推定相続人の廃除取消の指定がない場合には、相続人だけで遺言内容を執行することができます。 しかし、相続人が多数いる場合や相続人に不利な内容の遺言内容の場合には、遺言の執行が思うように進まないことが予想されます。 この場合には遺言執行者の選任申立をした方が良いかもしれません。 遺言書作成時にそのようなことが予想される場合には、遺言書に遺言執行者を指定しておいた方が賢明です。

遺留分

 遺言内容に沿って遺産を分割すると、各相続人の相続分は、法定相続分より多かったり、少なかったりする場合があります。 「遺留分」は、相続人である限り最低限もらえる相続分をいい、遺留分に満たない場合には、遺産を多くもらった人に遺留分に達する相続分を請求することができます。

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