遺言書の種類・内容

 遺言は、法律で定める一定の方式に従ってしなければならない「要式行為」であり、「遺言の方式」「遺言内容」が定められています。 また、遺言は遺言する人の最期の意思表示として尊重されなければならないものなので、その人にしかできない一身専属の行為で、他の者が遺言を代理することは認められません。 さらに、遺言者の判断能力がある状態で遺言する(遺言能力)ことが必要で、正常な意思能力の基にされたものであることが必要となります。 これらの要件を備えない遺言は、法的に効力がありません。

要式行為
遺言はその方式や遺言内容について法律で定められています。 よって、法律に定められた方式に従う遺言でないと無効となります。 また、法律で定められた遺言事項については法的な効力がありますが、それ以外は法的には効力がありません。

一身専属の行為
一身専属とは、権利・義務が特定の人のもので、他の者に譲ったり、代わったりすることができない性質のことです。 例えば、自分がもっている自動車運転免許証は、自分に許可された資格で、他の者がその免許証を使って車の運転をすることは許可されず、自分が死亡すれば、その免許は失効します。 自分がもっている運転免許証は一身専属ということになります。

遺言能力
遺言は正常な判断能力がある状態でしなければその遺言は無効となります。 未成年者でも遺言することはでき、満15歳以上であれば遺言能力が認められ遺言することができます。 また、精神障がいのある人でも、障がいの程度や遺言時の意思能力により認められ、被保佐人や被補助人は遺言能力があるとされ、その補助者である保佐人や補助人の承認は不要です。 さらに、成年後見人は原則として遺言能力がないとされますが、本心を回復しているような状況で、医師2人の立ち会いのもと一定の方式に従う遺言が認められます。

遺言の方式

「遺言の方式」は、民法に規定されており、その規定に従わない遺言は無効となります。
遺言の方式は、【普通方式】【特別方式】に大別されますが、一般的に「遺言書」と呼ばれるものは【普通方式】の遺言です。

【特別方式】の遺言は、伝染病で隔離された者や船が遭難した場合の遺言で、この遺言は、危急時を脱して普通方式の遺言ができるような状態になった後6ヶ月間生存するときには、効力をなくします。 また、「危急時遺言」については、遺言が遺言者の真意であるかどうかの「確認」の審判を家庭裁判所で受けなければ効力がありません。

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【普通方式】の遺言は、【自筆証書遺言】、【公正証書遺言】、【秘密証書遺言】の3種類があります。 【公正証書遺言】以外は、遺言者が亡くなった後の相続手続きにおいて、遺言書の存在を確認し、偽変造等を防止する為「検認」という手続きを家庭裁判所で受けなければなりません。

自筆証書遺言

 遺言書を遺す人自身の手で遺言書を作成します。 最も簡単で費用がかからず遺言内容を秘密にできる方式ですが、様式不備、内容不明などによりその遺言書が無効になったり、紛失・破棄・改ざんなどの心配があります。 また、遺言者が亡くなったときには、相続手続きにおいて家庭裁判所の「検認」を受けなければなりません。

行政書士が遺言書を起案することにより、これらの様式不備、内容不明などを回避することができます。 この方式の遺言はすべて自筆しなければ有効な遺言とはなりませんので、判読できる程度に文字が書けなければなければ作成できません。
行政書士に依頼する場合には、ご本人のご希望を聴取し、それを基にアドバイスをしながら遺言書を起案します。 遺言書自身の作成は、起案した遺言書に沿ってご本人が自筆することになります。

公正証書遺言

 作成手続きが最も面倒な方式ですが、最も信頼性が高い遺言方式です。
公証役場において公証人が遺言内容をチェックする為、自分1人で作成する自筆証書遺言のような様式不備や内容不明の心配がありません。 また、公証役場において原本が保管されているので、謄本(原本の写し)を紛失したり破棄されるような事があっても謄本の交付を受ける事ができ、2名以上の証人が立ち会わなければならない為、遺言の存在が明確となります。 さらに、自筆証書遺言の場合に必要な「検認」の手続きは不要となります。 しかし、遺言作成手続きの費用や手間がかかり、証人となる人には遺言内容が知られることになりますので、証人を誰にするかが問題となります。

行政書士は遺言者や公証人と遺言内容を打ち合わせながら遺言書を起案し、依頼があれば証人として立ち会います。

秘密証書遺言

 この方式は、遺言の内容を秘密にしながら公証人や証人の立ち会いによる方式です。 自筆証書遺言の利点と公正証書遺言の利点を持っていますが、この方式による遺言は少なく、実際に利用されるのは、自筆証書遺言と公正証書遺言がほとんどです。 この方式の遺言は、遺言する人が遺言内容を考え、自筆又は代筆の他プリンターによる印字により遺言書本文を作成します。 遺言書を作成したら、封筒に入れ、封印した遺言書を公証人や証人の前で遺言書の存在を示すという手続により作成します。  遺言が存在することを明確にしながら公証人と証人はその内容を知ることができませんので、遺言内容を秘密にできる反面、ご自身で作成するため遺言内容に問題が出る場合があります。 家庭裁判所の「検認」の手続きは必要となります。

自筆証書遺言同様、行政書士が遺言書を起案することにより様式不備や内容についてチェックすることはできますが、遺言者と起案した行政書士が遺言内容を知ることになるという意味で厳格に遺言者だけの秘密ということにはできないことになります。 もちろん行政書士には【行政書士法】により守秘義務が課せられておりますので秘密漏洩するようなことはありません。

遺言内容(法定遺言事項)

 遺言書の内容は、法律上限定され、それ以外のものは法的効力が生じません。 これを法定遺言事項といい、法定遺言事項以外のことを書いたからといってその遺言全体が無効となるわけではありません。 妻に対する感謝の気持ちや「葬儀は簡素に行うこと」「兄弟仲良くするように」など法定遺言事項以外のことを書いても法的には効力を生じないというだけで、遺族の方々へ最期の願いとして尊重されるものであると思われます。
法的効力が生じる遺言事項は次の通りです。

① 推定相続人の廃除又は取消
暴力をふるったり、非行や浪費の絶えない相続人を相続人から外すことを「推定相続人の廃除」といいますが、これは、家庭裁判所の審判又は調停によりすることができ、生前及び遺言によってできます。 「推定相続人Xを相続人から廃除してください。」 生前一旦相続人から廃除した場合における取消も遺言によってすることができます。「推定相続人から排除されているXは、真面目に更生しているので排除を取り消してください。」
② 相続分の指定又はその委託
「私の遺産は、妻に2/3、長男に1/3を相続させます」「私の遺産は、○○○○さんが定めた割合に従って相続してください」
③ 特別受益者の相続分に関する指定
「長男には既に土地Aをやったが、この土地Aは相続財産には加えないでください」
④ 遺産分割方法の指定又はその委託
「土地Aと家屋Bは妻に、土地Cは長男に相続させます」「土地Bは○○○○さんが決めた方法に従い分割してください」
⑤ 遺産分割の禁止
「私が亡くなってから5年間は土地Aを分割してはいけない」
⑥ 共同相続人間の担保責任の定め
「二男BにはXに貸した500万円の貸金を相続させる。 この貸金債権が回収できないときは、長男Aと長女Cは、相続分に従い二男の損失を負担しなさい」
⑦ 遺贈の減殺方法の指定
相続人である限り最低限相続できる相続分があり、それを遺留分といいますが、遺言内容が遺留分に満たない場合は、不足分を他の相続人に請求することができます。 「長女Bが遺留分減殺請求を求めたときは、長男Aに相続させた土地Xを売却しそのお金で遺留分を充当してください」
⑧ 包括遺贈及び特定遺贈
「私の遺産の1/2を長男Aの嫁○○○○に遺贈します」「私の遺産の土地Xを長女の婿○○○○に遺贈します」
⑨ 寄附行為
「私の遺産で○○財団法人を設立してください」
⑩ 信託の設定
「私の遺産の○○アパートは、○○信託銀行が管理し、その受益者は妻とします」
⑪ 認知
「母○○○○の子○○○○を、私の子として認知します」
⑫ 未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定
「○○○○さんを長男○○○○の後見人として指定します、また、弁護士○○○○をその監督人に指定します」
⑬ 遺言執行者の指定又はその委託
「この遺言書の執行者として長男○○○○を指定します」「○○○○さんが決めた人をこの遺言の執行者とします」
⑭ 祭祀承継者の指定
「長男○○○○を祭祀承継者とし、○○家のお墓、位牌などを承継してください」
法では「祭祀財産(家系図、仏壇仏具、お墓など)」は、相続人に分割するという性質のものではない為、「相続財産」とはしておらず、承継者の指定がない場合には、慣習による事になります。 指定も慣習もない場合で、争いがある場合は家庭裁判所の審判により定まります。

①③⑨⑩⑪⑭については生前にすることができます。 ①は審判手続きが必要で、⑪は相続に影響が大きい為、生前に行っておく方が良い事項です。

生命保険金受取人の変更について
「保険法」の成立により「保険金受取人の変更は、遺言によってもする事ができる。」と規定されています。

遺言執行者の指定

 遺言書には遺言した内容を現実のものとして実現する人を定めることができます。 その人を【遺言執行者】といい、遺産分割が終了するまで相続財産を管理し、遺言の内容を実行します。 例えば、不動産や銀行預金を相続させる場合には、各種手続が必要となりますので、それらの手続をして現実的に相続を実行させます。 未成年者と破産者以外は遺言執行者となることができますので、相続人の1人を遺言執行者に指定することもできます。

遺言書の限界 (遺留分について)

 法律に規定された遺言方式に従う遺言は有効な遺言として法律上の効力を有します。  しかし、遺言の内容すべてがそのまま実現するわけではありません。 遺言者が自由にできる財産を【自由分】といい、構成する相続人によって自由分は変動します。 自由分以外を【遺留分】といい、各相続人が最低限相続できる相続分が存在します。 その【遺留分】を侵すような遺言をした場合には、【遺留分】を侵害された相続人は、遺産を多く相続したりもらった人に【遺留分減殺請求】(最低限もらえる遺産を私にくださいと請求すること)をすることができ、遺産を多く相続したりもらった人はその請求に応ずる義務が発生し、すべてが遺言の内容通りに実現するわけではないことに注意する必要があります。  もっとも、遺留分に満たない相続財産であっても本人が納得して、文句を言わなければ遺言内容とおりに実現します。

遺留分の放棄・・・相続人は、相続の開始される前に家庭裁判所の許可を得て、遺留分を放棄することができます。 遺留分は、相続する人の遺産への期待を保護し、被相続人死亡後の生活保障の性質を有するので、それを放棄するには、家庭裁判所へ申し立てて審判をしてもらいます。
複数の相続人のうち1人が遺留分の放棄をしても、他の相続人の遺留分の変更はなく、遺留分権利者が減ったからといって、その分遺留分が多くなるわけではありません。

「遺贈する」、「相続させる」、「贈与する」

 遺言書には「○○に譲る」とか「○○に遺す」という言葉を用いたりする事がありますが、以下のような言葉を使った方が適切です。

遺贈・・・「遺贈」とは「遺言により相続財産の全部又は一部を無償で譲る意思表示」をいいます。 この遺贈には、遺産の全部又は一部の分数的割合を指定する「包括遺贈」と遺産を具体的に特定する「特定遺贈」があります。

「包括遺贈」・・・「○○さんに遺産の全部を遺贈する。」とか「○○さんに遺産の2/3、□□さんに遺産の1/3を遺贈する。」という場合が該当します。 遺産を受けた人(第3者)は、相続人と同じ権利と義務を持つので、債務(借金など)も受け継ぎ、相続の承認や放棄をすることができます。 また、遺言書があっても遺産分割協議が必要で、遺産分割協議に参加することになります。
「特定遺贈」・・・「○○さんに土地Aを遺贈する。」という場合が該当します。 受ける遺産が既に具体的に特定されているので、遺言が効力を生じる(遺言した人が死亡する)とともに遺産はその人の所有となります。
「単純遺贈」と「負担付き遺贈」・・・遺産を与える人に対して、遺産を与える見返りに一定の義務を負わせることができ、これを「負担付き遺贈」といいます。 例えば、「○○さんに土地Aを遺贈する。 ただし、妻○○が生存中は、生活費として月額10万円を毎月末日に支払う。」というものです。 もし、この負担付き遺贈を受けた人がその負担(義務)を履行しない場合には、相続人は、その負担付き遺贈に係わる遺言の取消を家庭裁判所に請求する事ができます。なお、「負担付き遺贈」は、「包括遺贈」、「特定遺贈」のどちらに対しても認められますが、遺贈する財産価値の範囲内の義務と制限されています。 これに対し、何も義務を負わせない無償の遺贈は「単純遺贈」といいます。

「遺贈する。」・・・遺言で「遺贈する」という言葉は相続人以外の人に対して使い、相続人に対して遺贈する場合は「相続させる」を使います。  
「相続させる。」・・・遺言で「長男○○に土地Aと○○銀行の預金を相続させる。」というように、相続人に対して遺贈する場合に使います。 遺産を具体的に特定し、特定の相続人に対して「相続させる」と遺言書に書いた場合には、遺産の分割方法を指定したものとされますので、亡くなられた方(被相続人)が死亡した時、直ちに相続人が遺産を取得することになります。 例えば、不動産について「相続させる」は、遺産を受けた人が登記をしていなくても自分のものだと主張でき、遺産を受けた人が単独で登記できます。 「遺贈する」とした場合は、遺産を受けた人が登記をしていないと自分のものだと主張できず、遺産を受けた人と遺言執行者(又は相続人)とが共同で登記することになります。 また、登録免許税も、「相続させる」の方が安くなります。
なお、相続人以外に対して「相続させる」を使った場合は、「遺贈する」と解釈されます。
「相続させる」の代襲相続・・・遺言者より先に遺贈を受ける人が死亡している場合、その子が代わって遺贈を受けることは民法で否定されています。 「相続させる」の遺言の場合は、その子が代わって相続する代襲相続の規定の適用を受けるとの判例がありますが、遺言ではその意思を明確にする為、「長男に土地Aと家屋Aを相続させる。 既に長男が死亡している場合は、その子に代襲相続させる。」と記載するとよいでしょう。参照[ 代襲相続 ]

「(死因)贈与する。」・・・「死因贈与」は「私が死んだら土地Aを○○さんにあげましょう。」という、遺産を受ける側と与える側の双方の意思の合意による契約ですが、「遺贈」は受ける側の意思とは無関係に、与える側の一方的な遺言による意思表示です。 「死因贈与」は「遺贈」の1種として同じように扱うこととされていますが、いくつかの相違点があります。
「遺贈」と「死因贈与」の相違点・・・「遺贈」は、遺言の方式に従い書面で遺さなければ有効とはなりませんが、「死因贈与」は遺言の方式に従う必要はありません。 口約束でも有効とされていますが、書面に遺さないと相続人は撤回することができますので、書面で遺しておく必要があります。 また、「遺贈」は、遺言者の一方的な意思によるものなので、遺産を受けることについて承認・放棄することができますが、「死因贈与」は、遺産を受ける側と与える側の意思の合意によるものですから、承認や放棄ということはありません。

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