在留特別許可 (入管法 第50条 法務大臣の裁決の特例)

 退去強制事由に該当している場合でも、特別に在留を許可すべき事情があると判断されるとき、法務大臣の裁量により在留許可を付与されることがあります。
在留特別許可」とは・・・不法残留などの非正規在留者が警察に摘発されたり、自ら入国管理局に出頭した場合、退去強制手続きが執られますが、退去強制事由に該当すると認定される場合でも、在留を特別に許可すべき事情があると認めるときには、法務大臣の裁決による特例措置として在留が認められ、非正規在留が合法化され、正規在留となります。

なお、平成22年の統計によると、法務大臣の裁決の受理件数は、8,756件(前年からの繰り越し件数含む)で、在留特別許可件数は6,359件となっており、その内訳は、不法残留4,939件、不法入国・上陸1,044件、刑罰法令違反等376件です。

<参照クリック:退去強制>

在留特別許可される可能性が高いのは、日本人、永住者と婚姻するなどの密接な身分関係のある者で、日本に生活の基盤を築いているなど日本への定住性、人道上の在留の必要性など以下の①~④に該当するような場合で、最も多いのは④の場合です。
① 永住許可を受けているとき
② かつて日本国民として日本に本籍を有したことがあるとき(元日本人)
(かつて日本国民であった朝鮮人、台湾人は日本に本籍を有した者でない)
③ 人身取引等により他人の支配下に置かれて日本に在留する者であるとき
④ その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき

<参照クリック:④その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情>

在留特別許可された場合、その外国人の地位により在留資格と在留期間を決定し、その他必要と認める条件を付されます。 例えば上記①の「永住者」の場合には、「日本人の配偶者等」の在留資格へ変更され、在留期間が決定されたりします。 ③に該当する場合には、一定期間在留後に帰国することを前提として「特定活動」の在留資格が付与され、④において、日本人の配偶者であることを理由に在留特別許可が付与される場合には「日本人の配偶者等」の在留資格が付与されたりします。

「在留特別許可」の願い出

退去強制手続の概要と在留特別許可・・・「在留特別許可」は、下図のような退去強制手続の中で、法務大臣に願い出て在留を特別に許可してもらうことです。

在留特別許可の性質・・・在留特別許可を与えるかどうかは法務大臣の自由裁量に任され、その性質は恩恵的なものとされており、在留特別許可に関する処分についてその判断基準や処分の理由を明示しないことは、自由裁量権の濫用とは言えないと判示されています。 一方、退去強制事由に該当した外国人を画一的にすべて退去させる事は、築き上げた生活基盤をすべて奪い取る事になり、外国人の人権を著しく侵害するものである事から、3審制をとり法務大臣の裁決による事とされています。

自ら出頭して「在留特別許可」を願い出ることができます。・・・在留特別許可は、退去強制手続において、法務大臣の裁決の特例としてなされるものなので、申請に対する処分としてするものではありませんが、不法残留などにより警察に摘発される前に、自ら入国管理局に出頭申告して「在留特別許可」を法務大臣に願い出る事はできます。 出頭すれば不法に在留していることが解消され、在留を許可されるわけではありませんので、願い出すれば必ず在留が許可されるとは限らず、退去強制される場合もありますが、以下の「在留特別許可の諾否判断に係わる考慮事項<プラス要因>」の「特に考慮すべき事情」に該当している場合には、一応許可の方向で検討されると思われます。

在留特別許可の許否判断に係る考慮事項 <プラス要因> tolink

 「在留特別許可」は、個々の事案毎に、在留を希望する理由、家族及び生活状況、素行、人道的配慮の必要性等の個人的事情だけでなく、国内事情、国際情勢等を総合勘案して判断され、上記の①~③以外の[④その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき]には次のような事情が考慮されます。

特に考慮すべき事情

親の事情 容疑者が日本人又は特別永住者の実子であること。
子の事情 容疑者が次の実子(嫡出子又は父から認知を受けた非嫡出子)の親権を持ち、相当期間同居・監護・養育している。
日本人又は特別永住者との間に出生した未成年・未婚の実子
容疑者が次の実子と同居し監護・養育している。
日本の小中学校に在学(小学校5年生以上が目安)し
相当期間(約10年くらい)日本に在住している実子
配偶者の事情 容疑者が、日本人、「特別永住者」、「永住者」、「定住者」と婚姻が法的に成立し、夫婦として相当期間共同生活をし、(子がいるなど)婚姻が安定・成熟している。
本人又は
親族の事情
容疑者又はその親族が、難病等により日本での治療が必要不可欠である。
親族に日本での治療が必要不可欠な者があるときは、看護が必要であること。

その他考慮すべき事情

親の事情 容疑者が次の者の扶養を受けている未成年・未婚の実子である。
永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者の在留資格で
在留している者
子の事情 容疑者が、次の実子の親権を持ち、相当期間同居・監護・養育している。
永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者の在留資格で
在留している未成年・未婚の実子
配偶者の事情 容疑者が、永住者、定住者、日本人の特別養子又は日本人の子として出生した者、永住者又は特別永住者の子として出生し日本に在留している者と婚姻が法的に成立し、夫婦として相当期間共同生活をし、(子がいる等)婚姻が安定・成熟している。
本人の事情 自ら地方入国管理官署に出頭し不法滞在者であることを申告した者。
容疑者が、日本での滞在期間が長期間(約20年程度)で定着性が認められる。
その他事情 その他人道的配慮を必要とするなど特別な事情があること。

在留特別許可の許否判断に係る考慮事項 <マイナス要因>

 [④その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき]で、以下のような場合はマイナス要因として考慮されます。

特に考慮すべき事情

刑に処せられたことがある 違法薬物・けん銃等の密輸入・売買や凶悪・重大犯罪等により刑に処せられたことがある。
違反行為 不法就労助長罪、集団密航、旅券等不正受交付、不法・偽装滞在助長、売春、人身取引などの出入国管理行政の根幹に関わる違反又は反社会性の高い違反をしている。

その他考慮すべき事情

不法入国 船舶による密航、偽造旅券・在留資格偽装などにより不正に入国した。
退去強制歴 過去に退去強制手続を受けたことがある。
素行不良 その他刑罰法令違反又はこれに準ずる素行不良が認められる。
その他 その他在留状況に問題がある。

在留特別許可に係る諾否判断の基本的な考え方

 在留特別許可の許否判断は、上記のプラス要因とマイナス要因を、それぞれ個別に評価し、考慮すべき程度を勘案した上、プラス要因として考慮すべき事情が明らかにマイナス要因として考慮すべき事情を上回るような場合には、在留特別許可の方向で検討されます。  よって、マイナス要因があるからといって、在留特別許可が検討されないわけではありませんし、逆に、プラス要因さえあれば必ず在留特別許可の方向で検討されるということでもありません。 基本的には、プラス要因があり、マイナス要因となる在留状況に特段の問題がない場合には、在留特別許可方向で検討されます。

駆け込み婚(不法在留等で摘発された外国人との婚姻) tolink

「駆け込み婚」とは、摘発された外国人の退去強制を免れ、在留特別許可を付与されることを目的として、日本人や特別永住者などと婚姻を成立させることを言います。 しかし、2人の関係がまだ熟しているとは言えないような状態で、退去強制を免れる一心で婚姻を成立させるのは、当事者の将来にも影響することなので、結論を急がず冷静に話し合うことが必要です。

在留特別許可を求めるには、婚姻の真実性の立証が不可欠・・・駆け込み婚の場合は、特に偽装結婚を疑われ、法的な婚姻を成立させていないが、内縁関係にあり数ヶ月程度の同居歴があるような場合でないと許可される可能性は低いと思われます。 入国管理局は、婚姻について、法的な婚姻の成立と同時に、実体としての婚姻関係を重視するので、同居歴や(夫婦関係としての)共同生活の実体、婚姻に至るまでの相応の交際がないと、婚姻予定又は婚姻関係にあるとは見てくれませんし、その立証が十分されなければ許可の可能性は低いと思われます。 これに関連し、2人の関係が家族・友人・職場などの周知の事実であり、上申書などを作成してくれる場合には、同居歴が無くても婚姻の意思があることを立証できるので、許可の可能性がでてきます。 

偽装結婚の疑いをもたれると在留特別許可の可能性は低い・・・離婚歴がある場合で、外国人が過去に駆け込み婚による在留特別許可を受けていながら、再び不法残留となっていたり、日本人側が、過去に外国人と婚姻したことがあり、その外国人が不法残留となっている場合には、偽装結婚を強く疑われることになります。 特に日本人側に対しては偽装結婚の加担者として疑義をもたれる場合があります。

婚姻成立が法務大臣の裁決までに間に合わなかったとき・・・法務大臣の裁決までに婚姻を成立させ、必要な主張や立証書類を提出するのは時間との戦いになります。 婚姻が成立する前に法務大臣の裁決により退去強制令書が発付されてしまった場合は、再審を願い出ることができますが、在留特別許可は恩恵的な性質であり、再審の願い出は入管法上に明文規定があるものではないので、さらに困難度が高くなります。

2人の関係が婚姻の合意までには至っていない状態のとき・・・他に在留特別許可を求める理由がない場合には、退去強制令書の発付により退去強制させられます。 退去させられた場合には、日本への上陸は一定期間できなくなりますので、退去後の交際は、日本人側が相手国を訪問したり、相手国で暮らすなどして交際を重ねることになります。 婚姻の合意ができ、日本で共に暮らすこと希望する場合は、まず、相手国で婚姻を成立させてから在外の日本大使館・総領事館へ届出をします。 婚姻したからといって直ちに上陸を認められる訳ではないので、およそ1年半~2年くらいは相手国で共に暮らした後、単身で帰国し上陸特別許可を求め在留資格認定証明書交付申請をすることになります。 この場合注意すべきことは、在留資格認定証明書交付申請において、相手国で一定年数暮らしているので、夫婦が日本で暮らす理由や根拠を明確にし、かつ説得力ある書類を提出することが重要になります。 また、在留資格認定証明書が交付されるのは申請から半年程度かかるということです。

< 参照クリック:上陸特別許可 >

<参照リンク:外国人との婚姻 渉外戸籍ー婚姻>

日本人や特別永住者が不法在留の外国人と婚姻する場合

 上記の「駆け込み婚」は、摘発された外国人との婚姻を速やかに成立させて在留特別許可を求めるものですが、摘発されていなくても、婚姻しようとする外国人が不法残留などの非正規在留の場合には、婚姻を成立させてから自ら出頭し、在留特別許可を認めてもらい適法な在留状態にしておく必要があります。 非正規在留のままにしておくと、ある日突然摘発されるなどして退去強制の手続となってしまいます。

一旦出国してから上陸する場合・・・不法残留の外国人が出国命令対象者の場合には、婚姻を成立させた後自主的に出頭し、出国命令により一旦出国してから上陸禁止期間経過後に上陸することもできますが、1年間は上陸禁止期間となりますのでその間は離ればなれで暮らすことになります。 また、出国命令対象者に該当しない場合には、自主的に出頭しても退去強制手続により退去させられますので、原則として5年間(リピーターは10年間)は上陸することができませんので、一定期間経過後に上陸特別許可を求めることになります。 いずれの場合も、せっかく婚姻しても一定期間は離ればなれに暮らさなくてはならなくなります。 よって、以下の在留特別許可を求める方が得策といえます。

< 参照クリック:出国命令対象者 >

自主的に出頭し在留特別許可を求める場合・・・婚姻を成立させた後、在留特別許可を求めて自主的に出頭します。 この場合には、駆け込み婚の場合とは異なり、共に日本で暮らしながら、あらかじめ立証書類などを用意することができますので、余裕を持って準備することができます。 また、在留特別許可を求めて自主出頭した場合には職権による仮放免がなされ、在留特別許可を得るまで日本で共に暮らすこともできます。 しかし以下のような事情がある場合には、一旦出国する必要があります。

一旦は出国しなければならない事情があるとき・・・婚姻相手の外国人の前婚が解消しておらず、婚姻要件(独身であること)を満たさない状態にあり、帰国しなければ手続が進まないような場合には、在留特別許可の前提である婚姻を成立させることができません。 また、母国の両親等の健康状態に不安があったり、冠婚葬祭等に出席しなければならなくなったなど本人以外の者の事情により帰国しなければならないような場合には、一旦出国してから上陸する方法を考えなければなりません。

上記の一旦出国して上陸特別許可を求める場合、出国しないで在留特別許可を求める場合、いずれの場合においても、婚姻を成立させてから出頭することが肝要です。

<参照リンク:外国人との婚姻 渉外戸籍ー婚姻>

仮放免(入管法第54条、第55条) tolink

 退去強制手続において、収容令書、退去強制令書により入国管理局等に収容されている外国人について、本人やその配偶者・直系親族・兄弟姉妹等は、入国者収容所長又は主任審査官に対し、一時的に収容を解くことができる「仮放免」を請求することができます。

「仮放免」とは・・・退去強制手続においては、容疑者を収容する必要があるとされており(全件収容主義)、その例外的な措置として、出国準備、疾病治療、その他やむを得ない事情や人道的配慮が必要な場合に、一定の条件をつけて身柄を解放するものです。

3つの「仮放免」・・・「仮放免」は、①入国管理局が必要かつ相当と認める場合に職権で仮放免することがありますが、これがない場合には、申請により仮放免を求めることができます。
申請による仮放免は、退去強制手続きにおいて②退去強制事由に該当している疑義が生じている場合に身柄を拘束する「収容令書」が発付されている場合の仮放免と③退去強制が確定し「退去強制令書」が発付された場合の仮放免に分けられます。 ②は一時的に身柄拘束を解いて在留特別許可を求めるときに有効です。 ③は既に退去強制が確定しているので帰国準備の為の身柄解放を求めるものです。 

「仮放免」の条件・・・「仮放免」に付される条件としては、住居及び行動範囲の制限、呼び出しに対する出頭義務、300万円を越えない範囲内の保証金納付、仮放免の期間などが付けられます。 定期的に入管局への出頭を求められ、容疑者の出頭義務を確保したり、逃走を防ぐ為の担保として保証金を納付します。 この保証金は、摘発された場合は100万円~、自主出頭の場合は0~数十万円程度で、保証金を納付する者の資力と出頭確保の担保を考慮して定められます。 仮放免に付された条件に違反する行為や逃亡した場合の「仮放免取消」があったときは保証金の一部又は全額が没収され、仮放免中に自費出国する場合、仮放免期間終了により再び収容された場合には全額還付されます。 
「仮放免」の性質・・・あくまで在留資格のない状態の非正規在留なので、合法的に滞在しているわけではありません。 なお、仮放免の間は収容期間に算入されません。

「仮放免」の請求者・・・容疑者本人、代理人、保佐人(保護し助ける人)、配偶者、直系親族(祖父母、父母、子、孫、配偶者の父母・祖父母など)、兄弟姉妹が請求できます。

adicon 行政書士は「仮放免許可申請」の申請代理人となることができます。

「仮放免」の許否判断の考慮事項・・・「仮放免」諾否の基準はなく、入国者収容所長又は主任審査官の判断に委ねられていますが、許否判断については以下の考慮事項がありますので、「仮放免許可申請書」に、仮放免の必要性を訴える「理由書」や「資料」等を添付して訴求します。

1 被収容者の容疑事実又は退去強制事由
2 仮放免請求の理由及びその証拠
3 被収容者の性格、年齢、資産、素行、健康状態
4 被収容者の家族状況
5 被収容者の収容期間
6 身元保証人の年齢、職業、収入、資産、素行、被収容者との関係及び引受け熱意
7 逃亡又は仮放免に付す条件に違反するおそれの有無
8 日本国の利益又は公安に及ぼす影響
9 人身取引等の被害の有無
10 その他特別の事情

「在留特別許可」の可能性が高い場合には、「在留特別許可」を求めて自ら出頭するような「在留特別許可」の可能性が高いときは、職権により「仮放免」されることがあります。 原則は全件収容なので職権による「仮放免」がない場合でも、「仮放免」を申請すれば認められることがあります。 逮捕・起訴されたような場合においても、「在留特別許可」の可能性がある場合には、「仮放免」申請と「在留特別許可」の嘆願の準備をしておくと良いでしょう。 

「仮放免」取消・・・①逃亡した又は②逃亡のおそれがある場合、③正当な理由無く呼び出しに応じない場合、④その他仮放免の条件に違反した場合には、「仮放免」は取り消され、再び、収容令書又は退去強制令書により収容されます。 逃亡又は正当な理由無く呼び出しに応じないで取り消された場合は、納付した保証金の全部が、その他の理由により取り消された場合は保証金の一部が没収されます。

統計・・・仮放免許可件数

単位=件 平成21年 平成22年 平成23年
入国審査官の違反審査受理件数 34,247 25,731 21,584
特別審理官による口頭審理受理件数 7,607 8,777 9,286
収容令書による収容者が仮放免された件数 2,265 2,095 2,131
退去強制令書発付総件数 18,436 13,277 9,348
退去強制令書による収容者が仮放免された件数 837 1,012 1,062
在留特別許可件数 4,643 6,359 6,879

※ 特別審理官による口頭審理受理件数<退去強制令書発付総件数 となるのは前年からの繰り越し件数を含む為。

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