入管法は公正な出入国管理を実施し、その秩序を維持する為、禁止行為や命令違反に対する罰則を定めています。
罰則が退去強制事由に該当する場合
退去強制は「行政処分」として行われ、罰則は、刑事手続によって処罰されることになり、それぞれ同時に別個の処分として進められます。 例えば不法入国・不法上陸による不法在留の場合は、送検・起訴され刑罰が科せられます。 他方、退去強制事由に該当する為、退去強制手続が執られます。 刑罰としては3年以下の懲役、禁錮又は300万円以下の罰金に処せられるか、これらを併科されます。
刑罰法令に違反して刑に処せられた場合
刑罰法令違反者で退去強制事由に該当する者は、刑事手続きが優先され、服役(刑罰)後、退去強制(行政処分)されることになります。 例えば、逮捕される前は正規在留者であっても、窃盗により逮捕され懲役2年の刑に処せられた場合は、退去強制事由に該当します。 刑事手続きにより身柄が拘束されていても、退去強制手続きを進める事ができ、退去強制令書の発付までの手続きを行い、服役後に直ちに退去強制令書が執行されます。
不法残留者は、厳格な入国審査により毎年減少していますが、平成24年1月現在、不法残留者は、67,065人で、これを国籍別にみると、韓国16,927人、中国7,807人、フィリピン6,908人、台湾4,571人、タイ3,714人、マレーシア2,237人、シンガポール1,586、ペルー1,377人、ブラジル1,290、スリランカ1,256の順となっています。 在留資格別の不法残留者は、短期滞在46,845人、日本人の配偶者等5,060人、留学3,187人、興行2,956人、定住者2,627人の順となっています。
以下の者は、3年以下の懲役か禁錮、又は300万円以下の罰金に処されるか、これらを併科されます。 この規定は、「9不正難民認定」を除きすべて退去強制事由となります。
難民認定による刑の免除・・・1,2,5,7の者については、上陸後遅滞なく入国審査官に難民である事を申し出、その証明があったときは刑を免除されます。
法改正による罰則の適用
○1997年(平成9年)5月11日施行の改正法・・・入国時に上陸許可を受ける意思を要求する規定は1997年(平成9年)5月11日施行の改正法により追加された規定なので、これより前に有効な旅券を所持しながら上陸許可を受けないで上陸した外国人には、第70条-1の「不法入国罪」は成立しませんが、第70条ー2の「不法上陸罪」「不法在留罪」は成立します。
○2000年(平成12年)2月18日施行の法改正・・・2000年(平成12年)2月18日より前に不法入国・不法上陸した者については、3年を経過すると公訴時効にかかり罪に問えませんでしたが、改正法施行以降に不法入国・不法上陸した場合は、不法在留が継続する限りは公訴時効は進行しません。 改正法施行前に不法入国・不法上陸した場合は、不法入国・不法上陸は3年の公訴時効にかかり、不法在留の開始は2000年(平成12年)2月18日からとなります。(公訴時効・・・判決が確定していない事件に関する時効で、犯罪が終わった時から一定期間を経過すると公訴が提起できなくなる。)
禁錮と懲役の違い・・・禁錮と懲役は共に拘置されますが、懲役は刑務作業に服し、禁錮は拘置されるだけです。 犯罪内容については、大雑把に分ければ懲役は殺人・窃盗等の道徳的に非難されるべき動機による破廉恥罪、禁錮は政治犯・交通事故反・過失犯ということになります。 また、刑の軽重比較は、禁錮:懲役=1:2で禁錮4年≒懲役2年というのが大まかな目安です。
資格外活動の許可を受けずに在留資格に該当する以外の就労活動を行った者は、1年以下の懲役、禁錮又は20万円以下の罰金に処し、又はこれを併科されます。
資格外活動の罰則と退去強制事由の関係・・・第73条は、「非専従資格外活動者」についての罰則規定で、在留資格に該当する活動を行いつつ、許可を得ず資格外活動を行っている者が該当し、この罰則により禁錮以上の刑に処せられた場合は、退去強制事由[刑罰法令違反者4-へ]に該当することになります。 上記 入管法第70条-4の「専従資格外活動者」についての罰則規定は、在留目的が実質的に変更したと評価し得る程度まで資格外活動を行っており、在留資格以外の就労活動を専ら行っていると明らかに認められる者についての規定で、退去強制事由[専従資格外活動者4ーイ]に該当します。
入管法規定 | 罰則 | 退去強制事由 |
第70条 専従資格外活動者 |
3年以下の懲役か禁錮、又は300万円以下の罰金に処されるか、これらを併科 | 4-イに該当する。 (下表参照) |
第73条 非専従資格外活動者 |
1年以下の懲役、禁錮又は20万円以下の罰金に処し、又はこれを併科 | 禁錮以上の刑に処せられた場合、4-へに該当する。(下表参照) |
入管法の退去強制事由 | ||
専従資格外活動者 | 4-イ | 在留資格の活動以外の事業運営活動、報酬を受ける活動を専ら行つていると明らかに認められる者(人身取引等により他人の支配下に置かれている者を除く) |
刑罰法令違反者 | 4-へ | 非専従資格外活動者で禁錮以上の刑に処せられた者 |
以下の不法就労助長行為者は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科されます。
不法就労助長行為 | 1-1 | 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせること。 不法就労者を雇用した者・監督する者・派遣した者が該当します。 |
1-2 | 外国人に不法就労活動をさせるために自己の支配下に置くこと。 | |
1-3 | 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為 又は2の行為に関しあつせんすること。 |
< 詳しくは「外国人雇用について」のページをご覧ください >
「在留カード」は、在留する外国人を法務大臣が一元的・継続的に把握することにより、在留管理に必要な情報把握の精度向上を目指した制度なので、情報取得の段階で漏れや不正があると正常に機能しなくなることから、届出等の義務違反や「在留カード」の不正使用等についての罰則が設けられました。
第71条の2・・・虚偽届出等をした者は1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられます。
虚偽の住所地届出 | 1 | 中長期在留者で、住所地届出、基本的身分事項変更、配偶者の身分事項の変更において虚偽の届出をした者 |
在留カード更新・再交付義務違反 | 2 | 在留カード有効期間更新、紛失・毀損等による再交付の申請をしなかった者 |
第71条の3・・・届出義務違反者は20万円以下の罰金に処せられます。
住所地届出義務違反 | 1 | 中長期在留者で、住所地届出義務を怠った者 |
新住所地届出義務違反 | 2 | 在留資格変更に伴う新住所地届出義務を怠った者 |
在留カード記載事項変更届出義務違反 | 3 | 在留カード記載事項に変更があった場合の届出義務を怠った者 |
第73条の3・・・在留カードを偽変造・使用した者等は、1年以上10年以下の懲役に処せられます。なお、以下の未遂についても罰せられます。
在留カード偽変造した者 | 1 | 使用する目的で在留カードを偽造・変造した者 |
偽変造在留カード使用 | 2 | 偽造・変造された在留カードを使用した者 |
偽変造在留カード提供・収受 | 3 | 使用する目的で、偽造・変造された在留カードを提供し、収受した者 |
第73条の4・・・使用目的で偽造・変造された在留カードを所持した者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
第73条の5・・・在留カードの偽造・変造の為に器械や原料を準備した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
第73条の6・・・在留カードを不正使用した者は1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられます。
在留カード不正使用者等 | 1 | 他人名義の在留カードを使用した者 |
2 | 使用目的で、他人名義の在留カードを提供し、収受し、又は所持した者 | |
3 | 使用する目的で、自己名義の在留カードを提供した者 |
第75条の3・・・在留カード不携帯・・・在留カードは常時携帯義務が課せられ、旅券の携帯義務は在留カードの携帯により免除されますが、在留カードの携帯義務は旅券の携帯により免除されません。 在留カード常時携帯義務違反に対しては20万円以下の罰金に処せられます。
以下の者は1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処し、又はこれを併科されます。
逃亡者・逃走者 | 1 | 収容令書又は退去強制令書により身柄を拘束されている者 |
2 | 退去強制を直ちに執行できない場合について、特別放免されている者が、特別放免の住居・行動範囲の制限、呼び出しに対する出頭義務その他条件に違反して、逃亡又は正当な理由なく呼び出しに応じないとき | |
3 | 生命・身体又は身体の自由を害するおそれのある地域から逃れてきたような難民等の上陸を認める「一時庇護の為の上陸許可」を受けた者が、上陸許可の条件に違反し、逃亡したとき | |
3-2 |
出国命令制度により出国命令を受けた者で、出国命令に付された条件に違反し逃亡した者 | |
3-3 | 難民認定の申請のあった者に対する仮滞在許可を受けた者で、逃亡又は正当な理由無く呼び出しに応じない者 | |
難民認定証明書返納義務違犯 | 4 | 難民認定を取り消された者等の「難民認定証明書」返納義務違反 |
難民旅行証明書返納義務違犯 | 5 | 法務大臣から「難民認定旅行証明書」の返納を命じられた者で、期限内に返納しなかった者 |
入国審査官から出国の確認を受けないで出国、又は出国を企てた外国人及び日本人は、1年以下の懲役か禁錮、又は30万円以下の罰金に処されるか、これらを併科されます。 出国しようとする外国人及び日本人は、出国確認を受ける義務があり、入国審査官から出国の証印を旅券に受けなければなりません。 なお、この規定は不法入国者・不法在留者についても適用されます。